3 研究計画書

3−1 研究計画書の必要性

 実際に研究を始める前に、教官と打ち合わせながら、研究計画を練る必要がある。教官の側は「研究の経験者」であるから、適当なコメントがもらえると思う。
 データ収集には、膨大な時間とお金と手間がかかるのが普通である。したがって、失敗は許されない。やり直しできる場合にはまだいいが、場合によってはやり直しができないようなデータ収集というものもある。なるべく失敗しないために、事前に綿密な打ち合わせが必要である。
 研究計画書は、計画自体がおかしくて、研究がスタートしてから、どうやっても研究がまとまらず、論文が書けないというようなことにならないように、そういう例を教官の側で早く見つけて手を打つことも目的の一つである。
 打ち合わせのためには、研究計画書を提出する必要がある。その理由は次の通りである。
(1)研究計画書という目に見える書類にすることで、頭の中でもやもやしていた計画が具体的になる。書くことは考えることである。
(2)直接面談する際に、何も資料なしに話し言葉で適当に打ち合わせを行なうよりも、まずは学生側でこう考えたというきちんとしたものを前にして話ができるので、能率的である。
(3)教官の側が面談の時間がとれないときでも、あとでコメントをもらうことができる。
(4)打ち合わせをどのように行なったかという記録になる。何回も研究計画書を出すことによって、計画をどのように変更したかという記録にもなる。
 研究計画書のようなものは、まさにワープロで打つべき文書である。その理由は、次の通りである。
(1)計画を考えながら作成するので、あちこちをひんぱんに修正しながら作成することになる。
(2)教官との打ち合わせのたびに改訂が入る文書である。
(3)他人に見せるべき文書である。したがって、見やすい文字で書いてあることが望ましい。
(4)ワープロで打つと、小さい文字で書くことで情報の一覧性を高めてくれる。
(5)以前の段階の研究計画書も、記録の意味でそのままで保存するべきである。ワープロは、ディスク内で文書のコピーが簡単にでき、このような使い方にむいている。
 研究計画書を持参して教官に相談する際は、最低でも自分の保存用と書き込み用、それに教官用の3部用意しておくことが望ましい。保存用は、フロッピー内の文書で間に合わせることができるので、その場合は研究計画書を2部用意する。

3−2 研究計画の立て方

 学生の側では最初はどんな計画を立てたらいいか、迷う例も多いと思うが、まずは自分のオリジナルな発想を重視したい。最初は到底実行不可能なような計画であっても、教官との議論を通じて最終的には妥当な計画になるものである。

3−2−1 共同研究・共著の問題

 学生のレポートでは、共同研究・共著は、一般によくない。ひとりずつの成績の評価がむずかしいからである。
 ただし、共同調査はけっこうである。もしも、共同調査するなら、共同調査の結果を各自の視点で分析し、それぞれ独立のレポートとする。このあたりを計画段階で相当にきちんとしておかないと、あとで大変になる。共同調査者は、分析項目・分析方法など、相互の違いがはっきりするように相談しておく。
 また、最終執筆の段階でも、分担してそれぞれに執筆するとともに、レポート中には共同調査であることと共同調査者の名前とを明記する。

3−2−2 実施可能なこと

 最大の要因はデータ整理の「手間」である。学生のレポートなどではマンパワーは自分ひとりと考えるべきであるから、自分のできる範囲での計画にするべきである。かかるコストや他のスケジュールなどとも関連させながら、十分実行可能なように考慮する。
 データ量の問題は、自分の分析能力を考えて決めるべきである。この点で、コンピュータが利用できるなら、使うほうがよい。コンピュータは優秀な道具であるから、使うことは自分の分析能力を高めることに相当する。手集計はかなりシンドイことが多い。
 調査の規模については、どこかを中心にしたら、別の面で簡単にせざるを得ないという点を考慮しておくべきである。アンケート調査でいえば、項目数を多くしたら人数を減らさざるを得ないということである。どこに重点があるのか、計画段階できちんとしておくべきである。
 コンピュータを利用する際には、次のようなことを考えておく。
(1)どこのコンピュータをどう利用するのか(できるのか)。
(2)どうやればデータをうまくコンピュータにのせることができるか。
(3)コンピュータ処理では、データの入力に最も手間がかかる。
(4)データを入力したあとは、データ量はほとんど問題がない。データ量が多くても少なくてもかかる手間はあまり変わらない。したがって、コンピュータは大量データ向きである。
 以上のような話を聞くと、当然だと思うだろうが、実際に自分で計画を立てる段になると、マンパワー以前の荒唐無稽な計画が出てくることがよくある。こういう場合、研究自体の可能性の検討がなされていないわけである。
 例:現代の諸方言の間の音声の違いを調べ、その理由を「食料事情・民族性・医学的見地」などの観点から調べるという計画を立てた学生があった。
 この計画がなぜ荒唐無稽かを述べると、たとえば次のようになる。
 (1)現代の方言の間の違いは、相当昔からのものである。まず、200年ないし(もしかすると)1000年以上にもわたると考えられる。したがって、「食料事情・民族性・医学的見地」についても、現代だけではなく、昔の状態を調べなければならない。これが可能か。
 (2)言語は文化現象の一部であり、「伝播」ということがある。音声現象についてもそれはある程度成り立つ。したがって、ある土地のある現象が他の地域からの伝播によるものなのか、本来的にその土地のものなのかを識別しなければならない。これが可能か。
 (3)もしも「食料事情・民族性・医学的見地」と方言の音声に関連があったとしても、それは「相関関係」にすぎない。相互の関連がわかっても、それは「理由」ではない。理由というのは、相関関係をとらえたあとに考えられる「論理的説明」である。それが可能か。
 (4)方言の音声は変化している。したがって、変化についての「理由」も同時に追究しなければならない。さもないと、現代の方言の音声の違いの「理由」はわからない。これを追究することは可能か。

 一般に、荒唐無稽な計画を立てる人は、見通しが悪い人、ものごとをよく知らない人、あまり深く考え(られ)ない人ではないか。

3−2−3 従来行なわれてこなかったような新しい研究・調査であること

 オリジナリティとは、いいかえれば、こういうことになる。たとえ、自分の手で一次資料を収集したとしても、同様なデータ収集がすでに行なわれており、結果が公表されていれば、自分のオリジナリティというのは主張できない。
 研究するまでもなく、すでにわかっていることもいろいろある。場合によっては、辞書にすでに出ていることがある。こういうのを確認しないのは努力不足である。たとえば、どんな外来語があるかなどというのは、「外来語辞典」を見ればそれで終わりである。
 従来行なわれてきたことを、確認する意味でもう一度そっくり行なうことを「追試」という。不合格の学生を対象とした「追試験」の意味の「追試」とは違う。追試も意味がないわけではないが、オリジナリティのある自分の研究のほうがもっと意味がある。従来の研究を調べたときに疑問が残るような場合には、追試を行なうことも次の問題の発見になることがあるという意味で有効かもしれない。
 では、どうやって、この計画が従来行なわれてこなかったと確認できるのか。これにきちんと回答することはきわめてむずかしい。一般論としては、関連する文献をすべて読み、そこになければいいといえるが、関連するものを「すべて」読むということは、なかなか大変なことである。いろいろと調べても、なおかつ「すべて」ではないことがある。この問題については「3−3 参考文献の探し方」で述べる。

3−2−4 計画をなるべく具体的に考えること

 具体性があることは、問題をしっかりはっきりとらえていることに通じる。
 たとえば、山梨県の方言を調査するという計画を立てた学生がいたが、その計画では「山梨県のあらゆる年代の人になるべく多く接して可能な限りの項目を……」とあった。
 こういう計画では、計画になっていない。(1)山梨県といっても広い。どこかの地域にしぼるのか、それとも、山梨県の各地に行くのか。(2)あらゆる年代といっても、子供や赤ちゃんまでも対象にするのか、長寿番付にのるような高齢者も対象にするのか。(3)多くの人と接するといっても、おのずから会える人数には限界があろう。何人くらいを予定しているのか。(4)「可能な限り」というが、どのくらいの努力でどのようにすればどのくらいの量が集められるのか、まったくわからない。項目の量が100か、1000か、10000かによって結論はかなりちがってくる。
 ある学生は、乗用車の名前を調査しようという計画を立てた。しかし、現在販売されているものだけを調べるのか、過去に販売された(そして現在販売されていない)ものも対象にするのかという基本的なことさえ書いていなかった。また、乗用車の名前というのは、どの部分のことなのかも明らかでなかった。仮に「リーダーRT2000スペシャルGSL」というのがあったら、どれが名前なのか。「リーダーSR2200」というのは同じ車なのか、別の車なのか。これは調査対象がはっきりしない例である。
 これらを明らかにすることが「具体的に計画を立てる」ということである。特に、データ収集では、対象物と収集量が不明なのは計画にならない。かける手間と結果の有効性を考慮しながら、適当な計画を練り上げるものである。

3−2−5 意味のある研究であること

 自分で、なぜそのようなことを研究するのかを考えることである。この研究が有意義だと自分が納得することは当然だが、自分だけが納得していて他人に説明できないとなると、一般的には問題である。
 理論的裏付けが重要である。理論があまりはっきりしない場合は、それを調べていったい何がわかるのか、という予想(仮説)が大事である。それがないと、何をやっているのか、意味付けが不十分になる。調べてわかったことを述べたときに、「だからいったい何なのか」と問われて答えられるか。
 データ収集を行なう場合は、まず目的から出発するべきで、「〜ができる状況にあるから」から考えるのは発想が逆である。(必ずしも悪いことだとは思わないが。)
 データ収集の意味を考えるときには、「なぜそのような対象を選んだのか、なぜそのような方法を採用するのか」などの質問に回答できるようにするとよい。
 例:飲食点の従業員のことばを調べようという計画を立てた学生がいた。しかし、飲食店に限定する理由が何かわからない。デパート・コンビニエンスストア・スーパーマーケット・本屋・自転車屋・美容院などなど、規模・営業形態・従業員などのちがうさまざまな店がある。そのような差も調べるとおもしろいのではないかと思う。
 要は、あらゆる課題の中からそのような課題を切り取ったという自分の問題意識である。

3−2−6 「比較」を分析の観点にすると、研究計画が立てやすい

 例:「乗用車の名称の特徴を明らかにする」ことを考えた学生がいた。だから、乗用車の名称だけをたくさん集めるという計画であった。しかし、乗用車の名前をたくさん集めれば、それでわかるのだろうか。そうではない。比較する「対象」が必要ではないか。たとえば、日本語全般でもいいし、別の商品の名前でもいい。それがないと、何が乗用車の特徴かわからない。
 このように、あるものを調べるとき、それ自体を調べるとともに、類似のものを調べ、両者の差異を見ることは、一般に好ましい結果を生み出す。特に、ある文化の特異な性質を調べる場合は、比較対照する態度が必要である。農村の言語生活の特徴を見るためには都市の言語生活と比較する。こういう態度は、日本のことを見るためには、外国のことを見よという態度につながる。
 そのとき、両者で本当に「同じ」条件で測定できているのかどうか、吟味し検討することが必要である。測定の単位が等しいかどうかに注意せよ。
 例:日本語原文とその中国語訳の両書の音節数を調べる計画が出た。日本語と中国語は音節構造がまったくちがうのだから、比較すること自体ナンセンスではないか。もしもナンセンスでないと考えるなら、どのような意味がある(と予想される)のかを明示することが必要である。
 ただし、文化人類学でよく行なわれるように、ある研究対象に「のめり込む」タイプの研究もある。

3−2−7 「分類」を分析の観点にすると、研究計画が立てやすい

 データ収集の場合は、分析の観点の一つとして「分類」をあげることができる。たくさんの例を集めた場合、似たようなもの、異なったものが大量に集まってくる。それらに対しては、思い入れが伴う。そこで、もったいないとかせっかくだからとかいうことで、つい羅列することがあるのだが、それはダメである。羅列でなく分類が大事である。「分類」というのは、収集したデータの見通しをよくするために、類似のものを近くに配置して整理することとでも考えられよう。つまり、分類というのは研究を進める人の頭にあるものの見方なのである。
 分類には、明確な基準が必要である。どんな基準が考えられるかは研究計画の段階でいろいろと具体的に考えておいたほうがよい。分類の基準のことを観点ともいう。どのような分類をしたら何がわかるかを予想してみることも重要である。

3−2−8 データ収集しにくい「きわどい」テーマは避ける

 ことばに関する研究では、そのような例は少ないが、差別語をアンケート調査で扱おうとするときなど、覚悟が必要なことがある。(現在は少なくなったが、まだトラブルに巻き込まれることがある。)一般に、差別語は以下のような理由で扱いにくい。
1)マスコミ関係は、社内でのチェックが厳しく、現在は外に出てこない。
2)差別用語を収集することだけなら、本を見れば終わってしまうテーマである。
3)面接調査では、慎重にやらないと誤解を招く。
4)差別の体験と差別語の使用とはまた次元が違う問題である。
 また、面接調査などで個人のプライバシーや内面の心理に入り込む調査をしようという場合なども注意が必要である。
 録音などで「隠しどり」をする場合、事後にでも相手の了承を求める必要があろう。まだ日本ではあまり問題になっていないが、アメリカでは相手の了承がなければ「隠しどり」したデータは使えない。今後は日本でもそのような方向になっていくと思われる。
 商品名の調査は、命名という観点からおもしろいが、メーカーに直接たずねることはできない。商品名(登録商標)については、激烈な競争状態にあるので、メーカーには、学生の生半可なアンケートなどに答えてくれる余裕はないだろう。もしかしたら宣伝のつもりで応対してくれる可能性もあるが、これは「本音」ではなく、単なる宣伝である。
 また、商品名の場合は、なぜその商品だけを取り上げるのかが不明確になることが多い。「シャンプー」ならシャンプーでなぜそれを取り上げるか。その意味付けをはっきりさせることが必要である。どうも思い付きのような調査になりやすい。
 研究テーマになりにくい課題というのもある。
 ことばに関する研究では、一般に語源を扱ったものは「研究」になりにくい。なぜならば、結局は他人の意見の引き写しになってしまうことが多いからである。「由来」も同様である。他人の説を列挙するのは簡単だが、それらのうちどれが正しいのかを客観的に明らかにすることはむずかしい。単に、「こういう考えもある」という程度になるのではなかろうか。

3−3 参考文献の探し方

 研究計画を立てる際に、参考文献を調べることは、オリジナリティのために必要である。それだけでなく、関連するものを調べることによって、自分の計画がいっそう豊かになるものである。場合によっては失敗例を知り、それを回避することができるかもしれない。どういうところがむずかしいか、工夫が必要なところはどこか、研究史としてさらに以前の文献にどんなものがあるか、などなど、参考文献を調べることはきわめて重要な第一歩なのである。
 参考文献を探す場合、ある分野の中心的な参考文献を探し、それを中心に読むことができれば、最も効率がよい。多くの研究分野で、そのような「合意」があるものである。というか、のような合意があるところに専門分野が成立する。
 しかし、残念なことに、社会言語学の分野では、そのような、全員が合意する「中心的な」参考文献というのは、見当たらないように思う。テーマの一つ一つについても、似たような状況があるのではないか。
 どのようにして参考文献を探すか。ここでは、一般論と、ある分野の個別論の二つを述べておく。
 一般論としては、まずあるテーマについて参考文献を探す場合、次のいくつかの方法を併用する。
(1)図書館などでコンピュータを利用して文献検索を行ない、関連のありそうな単行本を探す。
(2)雑誌論文についても、検索のための道具(書誌)があるので、キーワードで探すことができる。
(3)当該専門分野の文献案内のような本を探し、そこからたどる。
(4)当該専門分野に文献データベースがあれば、それを利用する。
(5)そのテーマに関連がありそうな雑誌を探し、その雑誌の過去数年分から10年分くらいの目次をパラパラと見ていく。年間の最終号に年間目次が出ることがある。また、数十号おきにそれまでの総目次(累積目次)が出ることがあるので、それが利用できれば便利である。
(6)当該専門分野の学会の雑誌などで、「概説・展望・review」などといわれるものを探す。
(7)当該専門分野の専門用語辞典をみる。関連テーマについて参考文献とともに簡単な解説が載っているので便利である。
(8)教官にたずねる。
(9)参考文献が一つでも見つかったら、それ以前のものについては芋づる式にたどることができる場合があるので、それぞれの末尾の文献欄を必ず見る。

 以上のような手順が普通であるが、ここで述べた方法は完全ではない。ひとりできちんと参考文献が探せるようになったら、その分野の専門家だといってもいいくらいであろう。それくらいにむずかしいことだと考えてほしい。
 こんな文献があるとわかっても、図書館にはいっていないかもしれない。そんな場合でもあきらめる必要はない。他の論文集や複製資料などに再録されていて読める可能性がある。そのあたりの情報は、教官にたずねるのが最も便利である。なぜならば、教官も苦労しながらなんとかその種の文献を読んでいるからである。

 筑波大学で「言語生活・社会言語学」分野の参考文献を調べる場合、これらは次のようになる。ただし、この分野は対象範囲が広いので、完全に網羅するわけにはいかない。
(1)TULIPS を利用する。
(2)『Arts and Humanities Index』を見る。日本のものでは、『ブックページ』という本の年鑑がある。これはキーワードから本が探せるようになっている。『書誌年鑑』というのもある。これらは特定の専門分野のものでないから、網羅的に探すことはできないが、関連するものを一つでも見つけられれば、参考にはなる。他にもあるかもしれない。
(3)真田信治氏の文献目録が便利である。もう少し広い分野のものでは『国語・言語学に関する27年間の雑誌文献目録 昭和23年〜昭和49年』(日外アソシエーツ)とか、『国語・国語教育・言語学に関する10年間の雑誌文献目録 昭和50年〜昭和59年』(日外アソシエーツ)がある。テキストのような入門書はあまりない。
(4)『日本語研究文献目録 雑誌編 フロッピー版』がある。
(5)国語学・日本語学・言語・言語生活(現在は刊行されていない)・放送研究と調査などがある。
(6)雑誌「国語学」には2年ごと8集おきに「展望号」が出る。
(7)『国語学大辞典』(東京堂出版)がよい。専門用語辞典とは性格が違うが、『図説日本語』(角川書店)も便利。
注:この分野の複製資料としては『日本語学論説資料』(以前は『国語学論説資料』といっていた)がある。

3−4 参考文献の読み方

 量にもよるが、一般に参考文献というものはかなり大量にあるものである。探せば探すほど出てくる。また、参考になるかどうか、関連があるかないかがわからないものも多い。そんな状態で参考文献をどんなふうに読んでいくか。これまたいくつかのポイントを示そう。

3−4−1 最初はなるべく速く読む

 関連があるかないかをみるのにそんなにゆっくりと読んでいられない。重要な文献でも、最初からじっくりと読む必要はない。まずは飛ばし読みがいい。次の段階でじっくり読むことにすればよい。関連がありそうな論文だ思ったら、ゼロックスコピーをし、保存しておく。

3−4−2 ゼロックスコピーを上手に活用する

 論文については、コピーし忘れがないかどうか、ページ数を確認する。特に、編集の過程で最後の半ページくらいが別のページに飛んでいることがあるので、この点に注意する。また、コピーした直後にそのコピーの先頭の見やすいところに、書誌情報(何という雑誌の何年何月発行の第何巻第何号の何ページから何ページまでか)を書き入れておく。論文1本ごとにホッチキスでとめておくとなくすことが少ない。
 関連する論文は、袋に入れるなり、パンチで穴をあけてファイルに綴じるなりして、一つにまとめて保存する。最近のコピー機は縮小・拡大機能がついているのが普通なので、コピーはできれば同じサイズに統一したほうがよい。全体をまとめたときにばらばらのサイズは使いにくいし、読みにくい。
 たとえ手持ちの(=自分で購入した)雑誌に載っている文献でも、コピーしておくほうが便利である。資料を一覧できることが重要である。

3−4−3 文献を読むときにはまとめて読む

 これは、ある分野の全体像を頭に入れるために必要なことである。特に、最初の段階では、なるべく短い期間で短い時間内に文献を集中的に読んでいくのがよい。ある程度の量を読んでしまえば、だいたいその分野がわかってくるものなので、あとは、必要に応じて、順次補いながら新しく発見した文献を読んでいく程度でいい。
 このとき、束ねておいたゼロックスコピーが力を発揮する。

3−4−4 記録をきちんと残す

 読んだ記録のためには、ワープロは必需品である。どんどん増える参考文献に対応するためには、ノートでは不十分である。カードならワープロ並みのことができるが、今後の活用のことを考えて、ワープロにするのがよい。
 記録といっても、読んだことのメモであるともいえるわけで、形式はいいかげんでいい。全部の文献を一つの文書に記録するのでもいいし、適当な分類や区分をしてもいい。(文書の形式をきちんと決めても、それはそれでいい。)何を書いておくくかが重要である。
 第1に、書誌情報である。ゼロックスコピーに書き込んだ情報の他に、ワープロでは、著者名・タイトル名も記録する。これらはあとで何回も参照されることが多いから、正確に記入しておく。
 第2に、所在情報である。なるべくなら、文献はコピーして自分の手元に置くようにするのがいい。これなら、いつでも参照できる。しかし、金銭的な問題や、文献の性質上そうできないものがある。そういう場合は、次にまたその文献が読めるように、所在情報(図書館名・階数・分類番号や、配架番号、整理番号などいろいろと呼ばれる)について記録しておく。
 第3に、内容情報である。必ずしもその文献の要約を入れる必要はない。自分のテーマに関連して必要な部分だけをごく短く(ワープロで数行くらい?)書いておく。あとで中身を思い出すときのおおきなてがかりになる。
 抜き書きは、一般的には行なう必要はないが、特に関連が深いところは、論文で引用する可能性があるので、「」を付けた上で正確にワープロ内に打ち込んでおく。しかし、これはなるべく少な目に押さえる。自分のオリジナルな論文を書くためには、他人の引用だらけで作成してはダメである。
 要するに、重要度・関連度などを判断しながら、ノートをとる要領で書き込めばいいのだが、読み始めは何が重要かわからないこともあるから、最低限の努力でできることくらいは書いておくようにしたほうがよい。あとでまたその文献を読むということもちょっちゅう起こるが、そういうときにも便利である。
 第4に、他の文献情報である。文献の末尾に載っている参考文献・引用文献などは、別途一覧表のような感じに書誌情報をまとめておく。これは「未見文献一覧」の性格を持つ。
 未見文献一覧は、適当な間隔でプリントして、持ち歩くようにするとよい。図書館にいくときはこれを持っていく。ゼロックスコピーが入手できたら、未見文献一覧から削除すると考えるが、そうではなく、それを別の文書に移動する。これが参考文献一覧である。一度入力したものは基本的に捨てない精神でいく。
 なお、参考文献一覧は、ゼロックスコピーを束ねたものの上に添えて「目次」の代用にすることもできる。

3−5 予備研究(準備研究)

 なにかの研究を本格的に始める前の研究を予備研究とか、準備研究とかいう。データ収集のことを調査ともいうが、その場合は、予備調査・準備調査という。研究計画を立てるときに、すでにこの種の準備をしておくことが大変望ましい。
 なぜ予備研究を行なうか。それは、データ収集を行なうときに、1回でいい結果が出ることは少ないからである。また、場合によっては、いきなりデータ収集に取り掛かろうにも、何を調べたらいいかわからないことがあるからである。
 ここでは、データ収集を念頭において、予備調査・準備調査を行なうときのポイントをまとめておく。
(1)予備調査・準備調査と本調査の関係を考える
 一般に、ある基準に当てはまるものを適当に(例として)ピックアップすることを続けてもそれだけでは意味がないことが多い。調査には、質的調査と量的調査がある。質的調査というのは、少数のサンプルを詳しく調べるということであり、量的調査というのは、多数のサンプルの全体を調べるということである。仮説を確認するような調査は、基本的に量的調査のはずだ。したがって、質的調査は、本調査以前に採用するべきである。
(2)予備調査と準備調査を区別する
 予備調査と準備調査は、一般に区別がはっきりしないが、ここでは次のように区別する。準備調査というのは、本調査の項目決定のためなど、本調査の内容と関連するがまったく別の違う調査を行なうことである。予備調査(pre-test)というのは、大量サンプルの本調査がうまくいくかどうかを確認するために、本調査とほとんど同じ内容のものをごく少数のサンプルについて調査することである。したがって、準備調査が時間的に前に位置し、予備調査はあとになる。
 予備調査か準備調査か区別がつかないようなことはしない。準備調査は、場合によって省略できる。
 準備調査の例を示そう。アンケート調査するとき、丸を付けてもらう選択肢をならべたくても、どんな選択肢が妥当か見当がつかないときに、自由回答で行なってみるのがよい。多く出てきたものを中心に整理して本調査の選択肢を作成すれば、一般にうまくいく(自然な選択肢が並び、記入しやすく、整理したあと有意義である)ものである。
 予備調査の例も示そう。アンケート調査では、意外に時間がかかったり、項目の並べ方がまずくて回答しにくかったりする。そのようなことにならないように、本調査と同じ形式で少人数の人を調査するのが予備調査である。予備調査の結果、調査票にまったく変更がなかったら、集計のとき予備調査分も本調査に入れて集計するのもいい。(厳密にサンプリング理論を考えれば、そんなことはできないのだが、実用的には大きな問題にならないことが多い。)テキスト調査でも同様で、マンガ雑誌を調査する場合、予定の項目を調査して1冊(あるいはその数分の1)あたり何時間かかるかを計算すれば、全部の予定冊数を調査するのに、どれくらいの時間がかかるかが概算でき、スケジュールが考えられる。
(3)なるべく手間をかけないで行なう。
 準備調査も予備調査も、まったくのむだに終わることがあるから、あまり手間をかける必要はない。しかし、たとえごくわずかでも、実際にやってみると、考えていたことと別の問題に出くわすことも多い。それにどう対処したらいいかを考えていくと、いい研究計画ができる。
(4)なるべく短期間に行なう。
 その性格上、計画全体を覚えている範囲で、短期間に集中して終えてしまうのがよい。場合によっては、準備調査・予備調査を2回、3回と繰り返さざるをえないこともあるから、その意味でも短期間に片付ける方針でないとやりにくい。

3−6 研究スケジュールの決め方

 授業のレポートや卒業論文については、年間スケジュールがある程度決まってくるが、一般の研究では、そうでもない。以下では研究スケジュールを決める際の注意事項を挙げておこう。
(1)最終発表(最終的な完成)の年月日を念頭において、それからの逆算で現在までさかのぼりつつスケジュールを立てる。
(2)中間発表などが予定されているときは、そのときどんなことを行なうかを考える。
(3)自分だけのスケジュールではなく、他人のことを考える。特に、アンケート調査では相手が調査に応じやすい期間を意識する。また、共同調査の場合の相手の都合とか教官との打ち合わせなども考慮するとよい。利用できる機械類の稼動予定とか、交通機関の運行なども関係することがある。
(4)研究スケジュールだけでなく、自分の普段の生活についても考えておく。ある期間に合宿があるとか、旅行にいくとか、日常のスケジュール全体との関連で研究スケジュールを決める。

 (3)と(4)で明らかなように、研究は日常生活の延長である。日常生活がきちんとしていない人は、いい研究ができない。

3−7 研究計画書の書き方

 研究計画の内容については、3−2で述べたので、ここでは形式的な側面について注意事項をまとめておく。
(1)全体の形式と分量
 研究計画書は、全体が一覧できることが重要であるから、1ページか2ページ程度にまとめるのがよい。一般に、横書きの場合は、ホッチキスは左上を止めるものである。
 以下に述べるような事項について順序を考えてまとめる。
(2)提出者の名前と提出日
 ついうっかりしやすいが、最も重要な情報である。後日の整理のためにも、作成した日付と名前は不可欠な事項である。
(3)タイトル
 研究の課題の中身が十分わかるように1行で書く。
(4)研究目的
 何をどこまで明らかにしようとしているのか具体的に書く。
(5)データ収集計画
 他人が計画書を見ただけでそれを実施できるように、調査対象項目・調査資料(新聞・他人に対する面接)・調査方法ないし調査手順・調査量(調査対象項目と調査資料の量)をなるべくくわしく書く。例を示して説明することが必要である。アンケート調査の人はアンケート用紙そのものを添付する。
(6)データ分析計画
 他人が計画書を見ただけでそれを実施できるように、分析対象項目(普通は調査対象項目と同じ)・分析方法ないし分析手順・利用する道具をなるべくくわしく書く。
(7)研究スケジュール
 準備から計画、データ収集、分析、論文の執筆までを含めて、どの時期にどんなことをするかを明示する。
(8)研究経費
 研究を実施するにはいくら必要かを計算する。データ収集も分析も考慮する。
 費用は、消耗品・備品・交通費・印刷費・複写費・その他に分類して算出する。自分自身の「人件費」は計算してはいけない。他人をアルバイトとして頼むことは不可能ではないが、学生の研究計画では望ましいことではない。消耗品と備品は何を何個購入するのか具体的に書く。交通費はどこからどこまで行くのかを明示する。宿泊料は交通費に含める。印刷費はどんなもの何ページを何部印刷するのかを書く。
(9)研究の必要性・意義
 その研究が必要なことを他人にわかってもらえるように書く。
(10)この研究の独創的な点・特色
(11)従来このテーマに関連して行われてきた研究
 関連する国内・国外の研究状況を述べる。文献を引用する場合、出典を明確にする。
(12)自分自身でこのテーマですでに行なった研究の成果または今回の準備状況

 なお、計画書の段階から、術語について注意したほうがよい。些細なことのようだが、これが最終段階まで尾を引く問題になることがある。
 術語(専門用語)はいつも一つの意味で使うようにする。すでに当該分野で特定の意味が与えられている述語は、自分の独自の意味で使わない。
 一方、自分で新たに作り出した術語は、どこかできちんと定義することが必要である。学生諸君が考え出したものとして、「季節語」とか「くずれ語」とか「軽薄語」などがあった。きちんと定義すれば、使っていけないわけではない。
 自分で新たに作り出した術語か、以前からある術語か区別できないのは、勉強不足である。

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